CROSSOVER BOOK | FEB 2023

心を動かすスポーツ SportsDocument CROSSOVER BOOK010

畠山健介

13日の金曜日[ラグビー元日本代表]

アスリート人生に壁が立ち塞がったならば。それは自分が成長するチャンスが訪れたと言うことだ。

CROSSOVER BOOK10

畠山 健介

KENSUKE HATAKEYAMA

Special Interview


誰かから求められ、誰かの夢を背負うことで初めて、アスリートは、人としての成長を遂げるのかも
しれない。畠山健介さんが苦悩の先に見つけたものを探ります。

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Special Interview KEISUKE HATAKEYAMA

2015年11月13日の金曜日。
ラグビートップリーグ(現・リーグONE)開幕戦。
その観客席を見たとき、彼の脳裏をよぎったのは……。
「怒り、(他のメジャー競技に対する)嫉妬……。いろいろな感情がいっぺんに襲ってきて、おかしくなりそうでした」
それは挫折とは違うかもしれない。乗り越えるべき壁にぶち当たったというのも、うまく当てはまらない。だが、この日を境に、純粋にラグビーを楽しんできた日本代表のプロップ、

畠山健介は消滅した……。

宮城県の気仙沼に生まれた畠山健介は、2022年の現役引退まで、
日本ラグビー界の王道とも呼ぶべきエリート街道を進んできた男だ。

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Special Interview KEISUKE HATAKEYAMA

高校は全国トップクラスの仙台育英高校に進み、花園ラグビー場で繰り広げられる全国大会で脚光を浴びる。大学は関東の名門、早稲田大学。同期の五郎丸歩と共に、全国大学選手権優勝を果たし、満員の観客席を熱狂の渦に巻き込んだ。その後は、サントリーサンゴリアスに入団。順調にキャリアを積み上げ、日本代表にも選出された。ワールドカップには、2011年のニュージーランド大会、2015年のイングランド大会に出場。特に、イングランド大会では日本のワールドカップ24年ぶりの勝利に始まり、遥か格上の南アフリカに大逆転勝利した【ブライトンの奇跡】に貢献、日本に一大ラグビーブームを巻き起こす。

このとき、畠山は30歳。
ラグビー選手として、
成熟の時を迎えようとしていた。

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Special Interview KEISUKE HATAKEYAMA

そして運命の、2015年11月13日の金曜日。ワールドカップの興奮冷めやらぬ中、国内ラグビートップリーグが開幕する。畠山を擁するサントリーサンゴリアスと、リーグの強豪・パナソニックワイルドナイツの激突は、盛り上がり必至。畠山は意気揚々とフィールドに飛び出ていった。しかし……。秩父宮ラグビー場の観客席は、満員には程遠い、空席が目立つ有様。

畠山は愕然とした。

「怒り、(他のメジャー競技に対する)嫉妬……。いろいろな感情がいっぺんに襲ってきて、おかしくなりそうでした」これまで彼のラグビー人生は、勝つことによって『熱狂』『人気』を巻き起こし、自分自身のモチベーションや、選手としての存在理由もまた、勝利に支えられてきた。だからこそ、ガラガラの観客席に畠山は絶望したのだ。

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Special Interview KEISUKE HATAKEYAMA

「勝つだけでは、
誰も認めてくれないのか……。
そう思った瞬間、
ラグビーが楽しくなくなってしまいました」


結局、チームは開幕戦敗北を喫し、この日を境に畠山のラグビー観は一変していく。※後に、空席の理由はラグビー人気とは別のところ(チケットの分配方法など)にもあることが判明。ラグビー界の未成熟さを露呈する出来事は、多くの選手を落胆させた経緯がある。そもそも、ラグビー選手・畠山健介は、自分の大志に向き合うことよりも、喜んでくれる誰かのために力を発揮するタイプの男である。13日の金曜日の悪夢を経て、畠山はフィールド外の活動を増やしていった。

「選手がフィールドで体を張れば報われる環境、システムを作りたいと思ったんです」ラグビー人気に役立つと思えば、どんな番組でも出演を厭わない。それは現役引退した今も続いている。だが、あの日の空席のスタンドが立ち塞がる壁だったとしたならば、畠山はまだそれを乗り越えてはいない。それでも、試合解説やPRに務めた2019年のワールドカップ東京大会で、日本はベスト8に進出し、再びのブームを巻き起こす。
畠山の活動は少しずつ実を結び始めているのだ。

本物のラグビー普及は、
いつしか彼のライフワークとなっていた。

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Special Interview KEISUKE HATAKEYAMA

「まだ答えは出ませんが、
必ず出ると信じて、
僕は求められるならどこにでも行きます」


アスリートは、己自身の目標に邁進することで強くなる。
一方で、誰かから求められ、誰かの夢を背負うことで初めて、
アスリートは、人としての成長を遂げるのかもしれない。

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畠山 健介

KENSUKE HATAKEYAMA

Profile


1985年8月2日生まれ、宮城県気仙沼市出身。
仙台育英高校で3年連続の花園出場。早稲田大学では全国大学選手権優勝などで国立を湧かせた。
2008年にサントリーに入団し、1年目から即戦力として活躍。トップリーグの新人賞を受賞した。
更に、2011年、2015年には日本代表としてワールドカップに出場。2016年にはイングランド
のニューカッスルでプレー。2019年に米国メジャーリーグラグビーのニューイングランド・フリー
ジャックスに入団。スクラム最前列で相手の重さを両肩に受ける右プロップながら機動力は抜群。