CROSSOVER BOOK | JAN 2023

心を動かすスポーツ SportsDocument CROSSOVER BOOK015

寺本明日香

運命を変えた出会い[サッカー元日本代表]

アスリート人生に壁が立ち塞がったならば。それは自分が成長するチャンスが訪れたと言うことだ。

CROSSOVER BOOK015

寺本 明日香

ASUKA TERAMOTO

Special Interview


怪我に悩まされ、挫折や個人の限界を感じながらも、諦めずに邁進した寺本明日香さん。
彼女の支えとなったモノとは?体操人生の裏側に迫ります。

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Special Interview ASUKA TERAMOTO

東京オリンピックに向けた体操日本代表候補の強化合宿、その初日……。
寺本明日香、床運動の練習中、バク転のために床を強く蹴った。
「痛みはなかったんですけど、頭の中で『パンッ!』てイヤな音が聞こえて……」
転倒した彼女は、テーピングがはがれ落ちた左足首を見たとき、事態を理解する。

「あぁ、やっちゃった、終わったな。
東京(オリンピック)はもうないなって」


左足アキレス腱断裂、翌日2月7日に手術。
代表選考を兼ねた全日本選手権やNHK杯への出場は絶望的だった。
夏の東京オリンピック(実際には翌2021年に延期)を
自身の集大成に見据えていた寺本の前に、
乗り越え難い壁がそびえ立つ。

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Special Interview ASUKA TERAMOTO

寺本明日香が初めて代表チーム入りしたのは、2011年、高校1年生のとき。ロンドン、リオと2大会連続でオリンピック出場。リオではエースとして団体4位に貢献した。また、2019年の世界選手権では中心選手の一人、ライバルで親友の村上茉愛がケガで欠場する中、キャプテンとしてチームを牽引。東京オリンピック団体出場権をもぎ取った。


地元開催のオリンピックで、
必ず復活するであろう
親友と共に戦える――。


寺本は間違いなく、心躍らせていた。

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Special Interview ASUKA TERAMOTO

そんな彼女を襲った、余りに酷な現実。寺本は手術の直前、村上茉愛にメッセージを送る。『体操人生終わるから 引退する ごめん まかせたよ』

壁を乗り越えることを
あきらめていた。


では、寺本の絶望的な感情を翻意したものとは何だったのだろうか。それは、彼女を案ずるコーチや代表入りを目指すライバルたちが、彼女の復活をあきらめなかったことに他ならない。長きにわたる代表チームでの活躍、東京オリンピックの団体出場権獲得への献身……。

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Special Interview ASUKA TERAMOTO

『寺本と共に戦いたい』、誰もその思いが揺らぐことはなかった。次々と周囲の熱い思いが届けられ、寺本の心に再び火が灯り始める。そして、決定的な瞬間は、見舞いに訪れたある人物によってもたらされる。『明日香は絶対に辞めないと思っていたから。大丈夫だよ』村上茉愛の笑顔がそこにあった。『今度は私が支える番だから。何でもいってね』


寺本の迷いは消え失せた。

「やっぱり(東京オリンピックは)2人でやらなきゃなって、思えたんです」加えて、ケガの功名も彼女を助ける。

かねてより悩まされていた、逆の右足の古傷が療養期間中に休められ、痛みが和らいでいたのだ。「(東京オリンピックに)出られるかどうかは結果でしかないんです。挑戦して、私の体操人生を最後まで全うしたい、そう決意していました」。


アスリートにとって、
挫折は個人の限界を知る機会でもある。


再び前を向いて進むには、周囲の人々の支えが必要不可欠であり、
ひいてはそれまでに築いた信頼関係がその支えを導き出すのだ。

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Special Interview ASUKA TERAMOTO

その後、寺本は驚異的な回復を見せ、1年延期となった東京オリンピックの代表選考に参戦した。
結果は承知のとおり、最後まであきらめずに戦い抜いたものの、僅かな差で代表入りを逃してしまう。
それでも寺本の存在感は重視され、当時の田中光女子強化本部長は、彼女を補欠選手として選出したのである。

オリンピック後の全日本選手権に出場した寺本は、体操人生を最後まで全うし、現役引退を表明。
現在は至学館大学女子体操部の監督に就任し、その指導には、2020年2月6日に端を発する経験が生かされているという。

「希望があるのにあきらめてしまったら、
後々の人生にまで引きずることになります。
そうした子を一人でも多く救っていきたいんです」


さらに新たな夢も見出した。それは、女子体操代表チームを、村上茉愛と共に支えていく未来だ。

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寺本 明日香

ASUKA TERAMOTO

Profile


1995年11月19日生まれ。愛知県出身の元体操選手。
2011年世界体操東京大会で初代表。以来9年にわたり代表入りを果たす。12年ロンドン五輪出場、
団体8位入賞。15年全日本個人総合選手権で初優勝。16年リオ五輪団体4位、個人総合でも8位入
賞を果たす。