CROSSOVER BOOK | JAN 2023

心を動かすスポーツ SportsDocument CROSSOVER BOOK016

萩野公介

運命を変えた出会い[サッカー元日本代表]

アスリート人生に壁が立ち塞がったならば。それは自分が成長するチャンスが訪れたと言うことだ。

CROSSOVER BOOK016

萩野 公介

KOSUKE HAGINO

Special Interview


最後まで挑戦し続け、競技人生に幸せを感じながら自分なりのゴールテープを切った。
そんな萩野公介選手の栄光と挫折に迫ります。

CROSSIOVER top-title_book016

Special Interview ASUKA TERAMOTO

2012年ロンドンオリンピック、
400m個人メドレー決勝。



競泳界の世界的レジェンド、マイケル・フェルプスに競り勝ち
銅メダルを獲得したのが、当時高校3年生の萩野公介だった。

以降、萩野は『和製フェルプス』の二つ名のもとに、
2016年リオデジャネイロオリンピックで同種目の金メダリストに昇り詰める。

だが……。

CROSSOVER BOOK016

Special Interview ASUKA TERAMOTO

リオオリンピック終了後の9月。


萩野は前年に骨折した
右肘の手術に踏みきった。


すべては、自国開催となる東京オリンピックでキャリアピークを迎えるために。術後は2017年の世界水泳、2018年のパンパシフィック水泳などでメダルを獲得し、順調に東京オリンピックへの道を歩んでいるかと思われた。しかし実のところ、親友でライバルの瀬戸大也の後塵を拝することが増え、タイムも伸び悩んでいた。ついには2019年の国内大会400m個人メドレー予選で、自己ベストを17秒も下回り、決勝を棄権。直後に休養が発表された。これが萩野にとって、長い不振のトンネルの入り口であり、アスリート人生最大の壁となったのである。

CROSSOVER BOOK016

Special Interview ASUKA TERAMOTO

萩野の不振の理由には、
さまざまな憶測が流れた。


『右肘の手術の影響で、絶頂期のフォームが崩れてしまっている』
『(リオで)金メダルを獲得し、燃え尽き症候群に陥っている』
当時の日本代表チームヘッドコーチ・平井伯昌氏は、萩野の現状について、「体調か、メンタルなのか、あるいは総合的なものなのかもしれないが、本人は分からないといっている」


平井コーチもまた、
不振の理由を計りかねていた。

CROSSOVER BOOK016

Special Interview ASUKA TERAMOTO

「約半年の休養を経て、萩野は競技に復帰する。だが、相変わらずタイムは思ったように上がらないままだった。「なぜ(以前のように)速く泳げないのか?」理由を探し、萩野は苦しみ続ける。


「全部投げ出したくなることは、
何度もありました」


それでも彼を競技に留めたのは、東京オリンピック出場への熱い思い。「ビリビリとした
緊張感のあるあの舞台で、もう一度勝負したいという気持ちを裏切りたくなかったんです」そんな萩野に平井コーチや仲間、そして家族が責めることなく寄り添ってくれた。

では、萩野公介はいかにして不振のトンネルを抜け出したのか?

それは意外にも、
単純な発想の転換だった。


「速く泳げない理由を探すのを止めたんです」自分のありのままの今を受け入れ、東京オリンピックの決勝の舞台で勝負するために何が必要かを考え始めたのだ。プラスになりそうなことは何でも試し、取捨選択を続けた。「行き着く先は同じでも、マイナス思考がプラス思考に変わったことで、勝負できる泳ぎが少しずつ戻ってきました」萩野は速く泳げない理由ではなく、速く泳ぐために必要なプラス要素を求め、不振から脱するきっかけをつかんだ。絶好調時の自分を基準にすることを否定はしない。だが、今を苦しむアスリートにとっては、素直に現状を受け入れることが大切なのかもしれない。

CROSSOVER BOOK016

Special Interview ASUKA TERAMOTO

2021年東京オリンピック。
萩野公介は200m個人メドレー決勝の舞台に立った。

「平井コーチとは、金は難しいけれどメダル争いのレースはできるはずと話してました」
結果は6位入賞。メダルには手が届かなかったが、悔いはなかった。

「メダルを獲りに行く気持ちは、
最後まで忘れませんでした。
結果は6位だったけど、
思い描いたレースができて、
僕は本当に幸せ者だなと感じましたね」


自分なりのゴールテープを切った萩野は、
大会終了後の8月24日、現役引退を表明した。

CROSSOVER BOOK016

萩野 公介

KOSUKE HAGINO

Profile


1994年8月15日生まれ。栃木県出身の元県競泳日本代表選手。
生後6か月から水泳を始める。小学校低学年から学童新を更新し、その後も各年代の新記録樹立。
17歳で初出場となったロンドン五輪では400m個人メドレーで銅メダル獲得。2016年リオデジャ ネイロ五輪では400m個人メドレーで金メダル、200m個人メドレーで銀メダル、4×200mフリー リレーで銅メダルを獲得。2017年4月より所属先のブリヂストンと5年契約を締結。2021年の日本 選手権では3大会連続の五輪出場を決めた。