CROSSOVER BOOK | NOV 2022

心を動かすスポーツ SportsDocument CROSSOVER BOOK006

鳥谷敬

想定外の魔の一球[元プロ野球選手]

アスリート人生に壁が立ち塞がったならば。それは自分が成長するチャンスが訪れたと言うことだ。

CROSSOVER BOOK006

鳥谷 敬

TAKASHI TORITANI

Special Interview


度重なるケガに打ちのめされながらも、4シーズン連続となる全試合フルイニング出場を果たし、
セリーグのシーズン最多となる646打席に立った鳥谷敬さん。
アスリートの成長にも通ずる、彼の経験に裏打ちされた金言とは。

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Special Interview TAKASHI TORITANI

ー 2015年6月21日。

阪神タイガース対東京ヤクルトスワローズ。
タイガースの遊撃手として、6回裏の打席に立った鳥谷敬。
マウンドには、スワローズの中継ぎ左腕・久古健太郎。

投じた一球が、鳥谷の背中を直撃!

何とか一塁に出るが、苦悶の表情が止むことはなかった。後の診断で、肋骨骨折が判明。当時、遊撃手としてのフルイニング連続出場記録を更新し続けていた鳥谷。開幕戦での、脇腹肉離れの負傷がようやく癒えてきた中での骨折だった。

「スポーツ選手にケガはつきもの」

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Special Interview TAKASHI TORITANI

1939試合連続出場、遊撃手として667試合フルイニング連続出場のNPB記録など、鉄人の異名を持つ鳥谷だが、意外にも試合出場が危ぶまれるケガが少なくない。2017年には顔面に死球を受けて、鼻骨骨折の重傷を負っている。それでも、鳥谷の連続試合出場は途絶えなかった。前述の言葉通り、彼は常にケガをすることは織り込み済みで毎日を戦っていたからだ。「ケガをしたなりの動き方というものがあるんです」

だが、2015年の
肋骨骨折は様子が違った。


「開幕戦での肉離れから3カ月近くたって、ようやくイメージ通りの動きができるようになった矢先でしたから……」今までにない事態に、理論派として知られる鳥谷の復活プランに狂いが生じる。「この時はさすがにね、終わったなと」プロ野球人生で初めて生じた感情、彼は絶望の淵に立たされる。

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Special Interview TAKASHI TORITANI

結果を先にいうと、2015年の肋骨骨折で鳥谷が戦線離脱することはなかった。試合出場の可否を問う首脳陣に対しても、体を動かせることを確認したうえで、ハッキリと告げる。「出られます」当然ながら、体には激痛が走っている。本来なら連続試合出場を断念し、回復に努めるのが妥当だ。しかし、鳥谷はそれを良しとはしない。「グラウンドに立ち続けることが、プロ野球選手としての自分の価値だと思っていましたから」休めば、誰かが自分のポジションに入る。そして傷が癒えたとき、そのポジションが戻ってくるとは限らない。

鳥谷は連続試合出場記録よりも、
自分の居場所を守りたかったのだ。


それでも、前途は多難。成績を出せなければ、結局ポジションは失ってしまう。ではいったい、どのようにして彼はその状況を打破したのだろうか?

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Special Interview TAKASHI TORITANI

そもそも鳥谷は『ケガはつきもの』として、常に備えていた。ケガをした直後から回復途上、そして回復後と三段階に分け、それに応じた動きができるよう、しっかりとイメージ作りをしているのだ。そして大きく調子を崩すことなく、乗りきっていく。想定外の二度目のケガに動揺し、一時は絶望の淵に立たされた鳥谷だが、やるべきことは変わらない。そこに行き着いた彼のメンタルこそ、困難に打ち勝つ最大の要因だった。

「人は、過去を振り返る反省に時間を
費やしてしまいがちですけど、
それだと時間がもったいないじゃないですか」

だから鳥谷は、次に進む方法を探すためだけに時間を使う。「グラウンドに立ち続けるには何をすべきか、それだけを考えるようにしました」患部に負担をかけない打撃フォーム、守備動作―回復の度合いによって繰り返される微調整。黙々とその時々の最高のパフォーマンスが発揮できるように準備していった。あわてず騒がず、負傷時の自分のルーティーンを徹底することで、彼はプロ野球人生の危機を脱したのである。

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Special Interview TAKASHI TORITANI

先にある良いイメージの実現を目指し、
『今やるべきこと、できることに集中する』。

それはアスリートの成長にも通ずる、鳥谷の経験に裏打ちされた金言なのだ。
2015年、二度のケガに打ちのめされた、鳥谷敬。だが……。
終わってみれば、4シーズン連続となる全試合フルイニング出場を果たし、
セリーグのシーズン最多となる646打席に立っていた。

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鳥谷 敬

TAKASHI TORITANI

Profile


1981年6月26日生まれ、東京都出身。
聖望学園、早稲田大学を経て2003年に阪神タイガースに入団。
1年目から開幕スタメンに抜擢され、長きに渡り阪神タイガースの遊撃手として活躍。
2020年にロッテに移籍し、2022年をもって現役を引退。
2004年9月から2018年5月まで継続した1939試合連続出場はNPB歴代2位。
現役通算2243試合、打率.278、138本塁打、830打点、2099安打。
ベストナイン6回、ゴールデングラブ賞5回、最高出塁率1回。