CROSSOVER BOOK | JAN 2023

心を動かすスポーツ SportsDocument CROSSOVER BOOK009

岡野雅行

運命を変えた出会い[サッカー元日本代表]

アスリート人生に壁が立ち塞がったならば。それは自分が成長するチャンスが訪れたと言うことだ。

CROSSOVER BOOK009

岡野 雅行

MASAYUKI OKANO

Special Interview


恵まれない環境で、心が折れかけていた岡野雅行さん。変えてくれたのは、運命的な出会いでした。
出会いを無駄にせず、諦めずに努力を続けた彼が手にしたものとは。

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Special Interview MASAYUKI OKANO

岡野雅行のサッカー人生は、まさに《壁》との戦いだった。

特に、学生時代の彼は波乱万丈……。

早くから頭角を現していた岡野だったが、本来伸び盛りであるはずの中学時代は、お世辞にも活動に熱心とは言えないサッカー部でくすぶっていた。「あのころ、まだJリーグなんてなくて、サッカーばっかりやっていてもしょうがないぞっていわれちゃう時代でしたから」心機一転、島根の全寮制高校に進むと、待ち受けていたのはまともなサッカー部すら存在しない、劣悪な環境。まだ15歳の少年には、酷な壁が立ちはだかった。だが岡野は『大好きなサッカーを思いっきりやりたい』という思いのみでサッカー部を興し、県の強豪にまでチームを押し上げた。この経緯は、後にTVドラマ化までされ、サッカー漫画の主人公のような、岡野の人生が注目を浴びたのである。

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Special Interview MASAYUKI OKANO

そして、岡野本人が『最大の壁であり、分岐点だった』と語るのは、日本大学サッカー部時代。当時、日大のサッカー部は、スポーツ推薦を受けて入学した者だけが所属するエリート集団。その推薦枠ではなかった岡野は、入部すら許されなかったのだ。それでも、キャンパスで偶然目にしたサッカー部員募集のポスターに飛びつき、入部テストの狭き門を突破! だが、告げられたのは……。

「マネージャーと洗濯係、
どっちがいい?」


つまり、求められていたのは雑用係の人間。だまされたのだ。今なら大問題になったかもしれない。だが、岡野は洗濯係を選び、入部する。

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Special Interview MASAYUKI OKANO

「洗濯係は一応選手扱いの部員なので、練習はさせてもらえたんです。試合に出られる可能性はゼロに近かったけど、もしものことがあるかもしれないと思って」このころ監督は一般の会社に勤めるサラリーマンで、土日しか顔を見せず、事実上仕切りは上級生の役目。お世辞にもエリート集団とは呼べないチームだった。わずかばかりの可能性にすがって、洗濯と練習の日々を送っていた岡野。しかし高校時代とは違い、自分の力ではどうにもならない現実。

ほとんど心は折れかけていた。

「でも、練習はサボらなかったんですよね。なんでだったのか……」
それが岡野自身を救うことになるとは、このときは夢にも思わなかった。

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Special Interview MASAYUKI OKANO

潮目が変わったのは、新コーチの就任だった。日大サッカー部OBの長島裕明。実業団リーグのフジタ工業で活躍し、現役引退したばかりの彼が新しい波を起こす。これまでサッカー部では、試合出場のメンバーは年功序列が基本。雑用係にはベンチ入りの可能性すらなかった。長島コーチはそんな風潮を良しとせず、実力主義を採用する。そして、その目に留まったのが、地道に熱心に練習を積む岡野の姿だった。「おまえはよく練習しているな。次の試合、出してやる」告げられたのは、

天皇杯予選への出場。
大抜擢だったが……。

「なんでお前なんだ!って。試合中も味方からの野次ですよ」岡野の抜擢に納得がいかない上級生たちが、味方の彼をこき下ろす。その剣呑(けんのん)な雰囲気を変えたのは、練習を積み上げた岡野のパフォーマンスに他ならない。1点取り、2点取り、3点目のハットトリックを決めたとき、状況は一変する。

『ダブルハット(トリック)狙え!』

声援に変わったチームメイトの声を背に、岡野は本当にやってのける。6点を奪取し、ダブルハットトリックを達成したのだ!これ以降、岡野は中心選手としての地位を確立し、後のJリーグ入団、そしてワールドカップ日本初出場を決定づけたストライカーへの道を駆け上がっていった。「長島コーチと出会わなければ、その後のことは全部なかったと思います。絶対に」

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Special Interview MASAYUKI OKANO

恵まれない環境……。
その壁を越えられず、心が折れかけていた岡野。
変えてくれたのは、間違いなく長島コーチとの運命的な出会いだった。
だがそれは、
岡野がサッカーを諦めなかったからこそ生まれた出会いなのだ。

『努力したからといって、
報われるわけではない。
でも、
努力しないと報われない』


これは、ボクシングミドル級元世界チャンピオン・村田諒太の座右の銘だ。
岡野のサッカー人生は、まさにこの言葉に言い表されている。
諦めずに努力を続けたアスリートのみが、立ちはだかる壁を乗り越えていけるのだ。

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岡野 雅行

MASAYUKI OKANO

Profile


1972年7月25日生まれ、神奈川県出身。
松江日本大学高校 (現:立正大学淞南高校) から日本大学へ進学し、3年時にプロ入りを果たす。
日本人離れしたスピードを武器にFWとして活躍。1996年にはJリーグのベストイレブン受賞。
1997年のフランスW杯予選では、日本を初めてのW杯出場に導くゴールを決め、脚光を浴びた。
その後は、ヴィッセル神戸や香港リーグでのプレーを経て、
2009年にJFL(当時)のガイナーレ鳥取と契約、 2010年シーズンのJリーグ昇格に貢献した。
2013年シーズン終了後、現役引退と同時にガイナーレ鳥取のGMに就任。